コルモゴロフ・アーノルド・ネットワーク(2)

 比較的単純な物体がすれ違う速度等の単純な物理法則を用いた入力データを生成し、データの一部でネットワークを訓練し、残りでKANのテストを行ったところ、KANのサイズを大きくすると、MLPのサイズを大きくするよりも速い速度で性能が向上することが分かった。偏微分方程式を解く場合は、KANはMLPの100倍の精度を示した。

 また、トポロジカル・ノットのシグネチャーと呼ばれる1つの属性を、ノットの他の属性に基づいて予測するネットワークを訓練した。この結果、MLPは約30万個のパラメータを使って78%のテスト精度を達成したことに対し、KANは約200個のパラメータだけで81.6%のテスト精度を達成した。

 さらに、KANを視覚的にマッピングし、活性化関数の形状や各接続の重要性を見たところ、手動または自動で弱い接続を削除し、いくつかの活性化関数を正弦関数や指数関数のような単純なものに置き換えることができた。そして、KAN全体を直感的な1行関数(すべての構成活性化関数を含む)にまとめることができ、場合によっては、データセットを作成した物理関数を完全に再構築することができたのである。

 KANを画像処理によく使われる畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と組み合わせ、手書きの数字や洋服を分類する能力について畳み込みKANをテストしたところ、従来のCNNの性能にほぼ匹敵するものだった。使用するパラメータはCNNだけに比べて約60%少なかった。KANの欠点のひとつは、GPUを活用できないことで、1パラメータあたりの学習に時間がかかることである。しかし、必要なパラメータは少ない。KANが画像や言語を処理するための巨大なCNNや変換器に取って代わることはないとしても、訓練時間は問題にならないだろう。

 

| | コメント (0)

2024年7月20日 (土)

コルモゴロフ・アーノルド・ネットワーク(1)

 コルモゴロフ・アーノルド・ネットワークは、物理学者に新しい仮説を指し示す可能性がある。

 人工ニューラルネットワークは、生物学的な脳の仕組みから着想を得たアルゴリズムであり、現代の人工知能の中心になり、チャットボットや画像ジェネレーターを支えている。しかし、多数のニューロンを持つ人工神経回路網は、ブラックボックスと化し内部構造はユーザーには理解できていない。

 このたび、根本的に新しいニューラルネットワークの作り方を生み出した。この新しいネットワークは、より解釈しやすく、より正確である。物理学のデータを簡潔に表現することを学習する方法は、科学者たちが新たな自然の法則を発見するのに役立つに違いない。

 従来のニューラルネットワークは、ニューロン(ノード)とシナプス(ノード間の接続)に例えて考えることである。多層パーセプトロン(MLP)と呼ばれる従来のニューラルネットワークでは、各シナプスが重み(2つのニューロン間の接続の強さを決定する数値)を学習する。ニューロンは層状に配置され、ある層のニューロンは、シナプス結合の強さによって重み付けされた前の層のニューロンからの入力信号を受け取る。そして各ニューロンは、活性化関数と呼ばれる単純な関数をその入力の合計に適用している。

 これに対し新しいアーキテクチャでは、シナプスはより複雑な役割を果たす。単に2つのニューロン間の接続の強さを学習するのではなく、その接続の完全な性質、つまり入力を出力にマッピングする関数を学習するのである。従来のアーキテクチャーでニューロンが使っていた活性化関数とは異なり、この関数はより複雑で、実際には「スプライン」であったり、いくつかの関数の組み合わせであったりする。一方、ニューロンはより単純になり、先行するすべてのシナプスの出力を合計するだけである。この新しいネットワークは、関数の組み合わせ方を研究した2人の数学者にちなんで、コルモゴロフ・アーノルド・ネットワーク(KAN)と呼ばれている。KANは、データを表現するために学習する際に、より少ない学習パラメータで、より柔軟な学習ができるというものである。

 

| | コメント (0)

2024年7月19日 (金)

世界最小ソーラードローン(4)

 クーロンフライは、1平方mあたり約920wの自然太陽光を照射した試験で、1秒以内に離陸することに成功し、性能の劣化もなく1時間の飛行を続けた。この結果から、太陽光を動力源とするMAVの用途として、長距離・長時間の空中偵察が考えられる。

 クーロンフライの推進システムは、最大5.8gの揚力を発生させることができる。これは、将来の自律飛行をサポートするため、最小のセンサー、コントローラー、カメラ等を搭載するのに十分である。教授は、まだモーターやプロペラ、回路等の改良余地は多いか、将来的にはペイロードを増やし、30gを搭載可能なクアッドコプターや固定翼の設計に変更することも可能と言っている。

 また、小さなリチウムイオンバッテリーを搭載することも可能で、24時間運航の可能性もある。この研究成果は、7月17日付の学術誌「ネイチャー」オンライン版にも掲載された。

 

| | コメント (0)

2024年7月18日 (木)

世界最小ソーラードローン(3)

 今回開発された静電モーターは、わずか1.52gで、揚力対電力効率は従来のMAVモーターの2~3倍である。

 静電モーターには2つの入れ子式リングで構成され、内側のリングは回転するローターで64枚のスラットがある。それぞれがアルミホイルで覆われたカーボンファイバーシートでできており、これは円形に湾曲したフェンスに似ている。フェンスの支柱の間には隙間があり、外側のリングには、正極板と負極板が交互に8組取り付けられている。各プレートの端にはアルミニウム製のブラシがあり、内側リングのスラットに接触する。

 クーロンフライの静電モーターの上には、幅20cmのプロペラがあり、ローターに接続されている。モーターの下には、2つの高電力密度薄膜ガリウムヒ素太陽電池があり、それぞれ4×6cmの大きさで、質量は0.48g、エネルギー変換効率は30%以上だ。

 太陽光がクーロンフライの外側リングを帯電させ、16枚のプレートが電界を発生させる。外側リングのプレートのブラシが内側リングに接触し、ローター・スラットを帯電させせ、外側リングのプレートの電界が帯電したローター・スラットに力を与え、内側リングとプロペラを回転させるのである。

 

| | コメント (0)

2024年7月17日 (水)

世界最小ソーラードローン(2)

 今回開発された超軽量MAVは、クーロンフライと名付けられ、重量は4.2g、翼幅20cmと小型軽量である。これまであったソーラー航空機は、幅2m、重さ2.6kgののクアッドコプターの約10倍小さく、約600倍の軽さだ。

 クーロンフライを開発した斉明精教授は、翼幅が1cm以下の超小型飛行体を作りたいと話している。プロトタイプとして、既にそのサイズ以下のものは試作しているが、まだ自力で飛ぶには至っていない。

 これまで太陽光を動力源とする航空機は、電磁石を使った電磁モーターを使っていた。ところが、航空機は小型化すればするほど、太陽光を集める表面積が小さくなり、発電できるエネルギー量が減少する。また、電磁モーターは小型化すると効率が急激に低下する。小型の電磁モーターは、大型のものに比べて摩擦が比較にならないほど大きく、また構成部品の電気抵抗によるエネルギー損失も大きい。その結果、揚力対出力効率が低くなってしまう。

 クーロンフライは、電磁モーターの代わりに静電モーターを採用した。静電モーターは、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)のセンサーとして使用され、空中推進には使用されていなかった。

 

| | コメント (0)

2024年7月16日 (火)

世界最小ソーラードローン(1)

 7月17日の記事で、太陽電池で飛行する小型ドローンが紹介されていた。これは、北京航空航天大学で開発されたものだ。
 
 最小・最軽量を目指したこのソーラードローンは、人の手のひらに乗るほど小さい。重さはアメリカの5セント硬貨より軽く、エネルギー源は太陽電池だ。

 このドローンは、マイクロ・エアリアル・ビークル(MAV)と呼ばれる昆虫や鳥のような大きさの航空機である。偵察やその他の用途に役立つ可能性を目指して開発されている。しかし、MAVが現在直面している問題は、飛行時間が30分程度に限られていることだ。重さが10g以下の超軽量MAVでは、10分未満しか飛行することができない。

 そこで注目されているのが、太陽電池である。このドローンは、初のソーラーMAVなのである。

 

| | コメント (0)

2024年7月15日 (月)

EVの本命は電動自転車(5)

 アメリカでは、擁護団体かつ業界団体のPeopleForBikesに後押しされ、30以上の州で「3クラス」システムが採用されている。3クラスとも、モーターの出力は750ワット(1馬力)に制限されている。

・クラス1の電動自転車は、ペダルを漕いだときのみ電気ブーストを発生し、アシスト速度は最高時速20マイル(約15km/h)
・クラス2もアシスト速度は時速20マイルに制限されている。しかし、オートバイのようにグリップをひねるタイプのハンドスロットルか、ペダルを漕いでいないときでも電気モーターを駆動できるボタンあり
・クラス3は、クラス1同様ペダルアシストだけなのだが、最高速度は時速28マイル

 しかし、各クラスが使用できる道路インフラは、地方、州、または国の規制によって異なる状況である。クラス3モデルは、通常、縁石から縁石までの車道か自転車専用レーンだけで許可され、自転車専用トレイルや歩行者と共有する多目的道路では走行が制限されている。ヨーロッパでは、電動マウンテンバイク(eMTB)は、モーター非搭載としてトレイル道で大歓迎されている。アメリカのライダーの場合、米国森林局、土地管理局、国立公園局は、eMTBをダートバイク、ATV、その他の原動機付き車両と何ら変わらないとみなしているので注意が必要である。そのため、クラス1のバイクであっても、トレイルへの進入は禁止されている。ペンシルベニア州、ユタ州、コロラド州など一部の州では、州立公園内のトレイルを例外としている。

 BMWのような自動車メーカーも、電動自転車界に参入している。ポルシェは、電動ハイパーカーの起業家であり、240万ドルのリマック・ネベーラを開発したマテ・リマックが立ち上げたクロアチアの高級自転車会社、グレイプの株式の過半数を取得した。リマック自身はブガッティ・リマックを経営しており、ポルシェはこの会社の少数株を保有している。電動リマックやブガッティから、仕事や遊びで乗る自転車への技術の転用が始まる。

 

| | コメント (0)

2024年7月14日 (日)

EVの本命は電動自転車(4)

 電動自転車の航続距離に関する課題は、非常に多くの変数があるということだ。ライダーの体重、風やタイヤの抵抗、さまざまな地形や地形等である。

 電動自転車メーカーの中には、アシストなしでの航続距離を80マイル、あるいは100マイルと謳うところもある。しかし、専門のライダーによれば、それが可能なのはそのほとんどが下り坂だけだという。一般的な経験則として、500~750ワットのモーターと480Whのバッテリーを組み合わせたもので、バッテリーパワーだけだとせいぜい20マイル程度しか走れない。

 ペダルアシスト自転車なら、同じ480Whのバッテリーで、1マイルあたり約15Wh、つまり32マイルを走れる計算になる。電動アシストの代償は重量である。リチウムイオンバッテリーは通常、6~8ポンドの重量を自転車に加える。

 バッテリーはリア・ラックに取り付けることができ、簡単に出し入れできる。高すぎたり、後方すぎたりすると、ハンドリングに影響する可能性がある。ダウンチューブ(サドルの真下にあるバー)に外付けされたバッテリーは、この問題を解消し、重量をバイクの主軸に沿って低く保つ。ダウンチューブ内に内蔵されたバッテリーは、スマートな外観となり、より伝統的な自転車ライクに見える。

 

| | コメント (0)

2024年7月13日 (土)

EVの本命は電動自転車(3)

 ミッドドライブはハブモーターとは対照的に、モーターをフレームの内側、ボトムブラケットのペダルの間に配置する。モーターのパワーはチェーンドライブを通じて後輪に伝達される。

 EVと同様、ミッドドライブモーターも軽量化、高強度化、静音化、低価格化が進んでいる。最大の利点は、従来のチェーンとギアシートを介してパワーを送ることで、モーターは急な坂道や停止状態からでも、ペダルと同じように低いギアと高い回転数で大きなトルクを発揮する。

 欠点は、貧弱なチェーンを介して常にパワーが急増することである。例えば、プロのサイクリストだと1時間あたり400ワットを発生させることができるが、普通の人間では半分も出せない。そして、ミッドドライブモーターは、最大750ワットの連続パワーを発生させることができる。そのため、ミッドドライブ電動自転車は、チェーンをアップグレードしなければならないのである。また、ミッドドライブモーターはハブモーターよりも小型軽量である。そのため、フレームの内側にモーターが隠れ、電動自転車だと気づかないほどステルスに見えるものもある。

 どちらのタイプも、スピードセンサまたはトルクセンサがペダルの踏力またはホイールの回転を検知し、モーターを作動させて前進をアシストする。ライダーは電動アシストのレベルを調整することができ、ペダルを強く踏み込めば、それに比例してモーターのパワーがアップする。ミッドドライブでは、純正のトルクセンサーがペダルクランクにかかる人間の力を検知し、電動アシストをスムーズに調整することができる。ハブモーターは、ホイールにある単純なケイデンスセンサーを使うことが多く、特に上り坂では、ギクシャクしたり、モーターブーストが予測できないことがある。

 

| | コメント (0)

2024年7月12日 (金)

EVの本命は電動自転車(2)

 電気自転車を支える技術は、2つの単純なカテゴリーに分類される。すなわち、ハブモーターがミッドドライブかである。

 ハブモーターは、ホイールセンター(前輪または後輪)に直接モーターを内蔵し、自転車のチェーンやペダル駆動から独立した密閉システムになっており、2つのタイプ(ギヤ付きとギヤレス)がある。

 ギア付きハブモーターは、減速用の遊星ギヤを内蔵しており、モーターを高回転で効率的に作動させながら、自転車のホイールを低速で回転させることができる。ギヤレス・ハブモーターは、モーターのステーターと自転車の車軸を直結している。そのため、弱点であるギヤの摩耗を減らすことができる。ハブモーターもギヤ付きとギヤレスの2種類がある。

 ベアリングを除けば可動部品はなく、消耗するものは何もない。ハブモーターは比較的手ごろな価格でメンテナンスも少なく、数百万個単位で大量生産されている。ミッドドライブが3倍から5倍もするのに対し、1000ワットのハブモーターキットを200ドル前後で手に入れることができる。ハブモーターは、チェーンやシフターに余分なストレスや摩耗を与えない。チェーンやペダルが壊れても、ライダーは電気の力で走り続けることができる。ただし、ほぼすべてのハブモーターのギア比は一定なので、ヒルクライムには不向きである。また、ハブモーターはバイクのバランスを崩し、まるでペダルを漕ぐというより押されたり引かれたりしているような操縦しづらい感覚を与えることもある。モーターがホイールに取り付けられているため、タイヤ交換も難しくなる。

 

| | コメント (0)

«EVの本命は電動自転車(1)