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2020年4月30日 (木)

自動車技術者のための人間工学(31)

 今日は月末なので、今回で人間工学シリーズは一旦終了する。本日のテーマは、われわれに最も重要なドライビングシミュレータ実験での留意点を紹介する。

 まず、実験目的に応じた実験計画を立てなければならない。これは、例えば、危険事象での運転行動を実験したければ、DSの被験者ドライバは危険事象を一度経験すると以降の実験で運転行動が変容するため、順序効果を配慮する必要があるということである。

 われわれの研究室のテーマである運転支援システムの効果を見たければ、同一被験者でシステムの有り無しを体験するよりも、システムがない状態での実験参加者群(統制群)とシステムありでの実験参加者群(実験群)を設定した方がよい。もちろん、危険事象は1回しか起こせないので、それを考慮した実験参加者数を確保しなければならない。

 そして、被験者への実験内容の説明は特に注意しなければならない。倫理的配慮から、危険事象があることを伝えなければならない。しかし、具体的に説明してしまうと運転行動が最初から変容してしまうため、具体的に何が起きるかは伝えず、危険を感じれば回避しなければならない等の一般的な運転をするように説明しばければならない。実験に際しては、いきなり被験者に本番走行をするのではなく、十分に練習走行(完熟走行)をさせる。もちろん、本番での危険事象は発生させない。練習走行により、実験の真の目的から意識をそらす効果もある。練習では、直線道路で信号のない高速道路を単独で運転する状態から、他交通を交え、一般道の複雑な状況と、徐々に複雑にしていく。いきなり一般道を経験させると、シミュレータ酔いを誘発することもある。

 被験者の主観評価を記録するため用意した質問事項にも注意が必要である。質問内容によっては、以降の行動に変容が出るため、内容だけでなく質問するタイミングも実験計画に入れるべきである。

 

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2020年4月29日 (水)

自動車技術者のための人間工学(30)

 実路での運転行動計測は、各種センサを装備した車両で行う。計測装置を装着した実験車両の使用は昔から行われていたものの、各種センサで実路での普通の運転を計測できるようになったのは1990年代からである。

 これは、センサ技術の発達、車載カメラの低価格化、そして計測制御用のPCの実用化によることろである。そして、これらの装備を装着して、大規模な運転行動の実体調査が始まった。

 2006年、アメリカ運輸省道路交通安全局NHTSAは、100台もの車両で運転行動を計測した「Naturalistic Driving Study」を発表した。これにより、ドライバのディストラクションやニアミスデータ等が蓄積され、運転行動の実態が明らかになってきたといえる。このような調査は、アメリカだけでなく、欧州、カナダ、オーストラリアでも推進されている。日本では、ドライブレコーダによるヒヤリハットの実態調査が進んでいる。

 Naturalistic Driving に対し、プロトタイプの新システムを装着した車両に一般のドライバを試乗させてデータを取る Field Operation Test(FOT)の行われるようになっている。FOTは新システムの評価と目的が明確なため、Naturalistic Driving よりも成果が出やすいといえる。

 

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2020年4月28日 (火)

自動車技術者のための人間工学(29)

 実験統制ができるDSを使って評価すれば、実際の道路で評価するよりも優れた結果が得られるのだろうか。DSが完全に実際の走行環境を模擬できていれば、そうかも知れない。

 現在のところ、どんなに優れたDSでも完全に現実世界を模擬することはできない。DSに種類によって模擬できる項目と程度が異なるのである。

 運転行動は、DSに揺動機構があるかどうかや揺動機構の性能、スクリーンの視野、ステアリング反力の仕様等、さまざまなものに影響を受ける。これらハードウエア的なものだけでなく、車両モデル、コンピュータグラフィックスの出来映えや他車両交通の動かせ方といったソフトウエア的なものにも影響を受ける。そしてこれら影響因子は、DSの種類によって異なるのである。さらに、DS実験のドライバの運転行動自体が実験シナリオに組み込まれている。つまり、DSは再現性や天候条件等の統制は取れても、心理学的実験における統制が難しいといえる。

 したがって、DSでの運転行動の評価は、DS自体の性能をよく理解して実路との相違を明らかにしておくことが重要である。そして、実験参加者へのシナリオ提示の方法や、実験参加者に気付かれないような統制が不可欠となる。

 

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2020年4月27日 (月)

自動車技術者のための人間工学(28)

 実際の道路で運転行動を計測する場合の最大の問題点は、統制不可能な影響要因があるということである。すなわち、天候や計測対象ドライバの選別等、計測対象としては統制が難しい。

 そこで、実験統制が可能なドライビングシミュレータ(DS)が使われるようになった。DSの起源は、運転席から見える走行シーンを映し出して模擬運転席から教習を受ける運転訓練である。

 運転操作に伴う加減速感の再現は、1950年代にGMが運転席を回転台としたジンバル構造をもったDSの開発に始まる。当時はコンピュータグラフィックスがなかったため、走行シーンの再現はジオラマを作って対応していた。1970年代では、ムービングベルトの上に作られたジオラマの道路を、ドライバ視点でTVカメラで撮影し、その映像をDSの運転席前面に映し出すDSが開発された。コンピュータグラフィックスと揺動装置を組み合わせたものは、1983年にVIT(スウェーデン道路交通研究所)で稼働を始めたDS,そして,1984年に稼働を始めたベンツ社のDSが現代のDSの基礎となった。

 これらDSの構成は、現代のDSと変わりないものである。しかし、これらDSの開発目的は車両の運動特性の研究のためであり、運転行動計測を目的としたDS使用は2000年以降のことになる。

 

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2020年4月26日 (日)

自動車技術者のための人間工学(27)

 自動車における人間工学では、実際の道路上での運転行動の把握が重要である。運転行動を抽象化した実験室実験は、実際の運転行動の基礎データがベースとなるのである。

 現代の道路上での運転行動は、各種センサやカメラでドライバの行動を記録して解析可能である。しかし、センサやカメラ技術が発達していなかった時代は、どのように解析していたのであろうか。

 エレクトロニクス技術が発達していなかった時代は、定点観測で運転行動を記録していた。例えば、時間帯や天候状態等でどのように運転行動が変化するかを、ある地点での交通量を計測することによって解析していたのである。動画撮影が可能な時代では、定点に設置したTVカメラの映像を記録していた。カメラの設置が難しい地点やカメラのない時代は、ゴムチューブを道路に渡しチューブの圧力変化を捉えて車両の通過を検知する手法が用いられていた。ゴムチューブをある区間に数m毎に配置すれば、車両速度や車間時間を求めることができ、トラフィックカウンタとして機能することができるのである。

 日本では交通渋滞問題が早くから社会問題化したため、首都圏ではトラフィックカウンタの設置が完備している。その他の地方も含め、日本は諸外国よりも道路側に設置したセンサは整備されているのである。

 

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2020年4月25日 (土)

自動車技術者のための人間工学(26)

 サイバネティクスによって、ドライバのステアリング制御特性の調査研究が始まった。このとき用いたタスクは、ステアリング操作そのものではなく、操舵タスクを抽象化したトラッキングタスクが用いられた。

 トラッキングタスクとは、追値制御や追従制御と呼ばれ、目標値となるターゲットと制御値となるカーソルとの差をゼロにする制御タスクである。これは実際のステアリング操作を使わなくても良く、画面に映し出された動くターゲットをマウスカーソルで動かす作業で良い。

 トラッキングタスクを通じてわかったことは、人間の追従制御はむだ時間+一次遅れ系で近似できることである。そして、実際の運転時のステアリング操作は、予見制御とみなされ、例えばカーブ時のステアリング操作は、追従型のフィードバック制御にフィードフォワード制御を加えた補償型フィードバック制御でモデル化できることがわかった。更に、レーシングドライバが遠くを注視することから、ドライバの入力として視覚情報が重要なことがわかってきた。

 研究が始まったときは理論的な側面が強く、実際に応用するものはなかった。ところが、その後運転支援システムや自動運転の研究が始まり、人間に違和感のない制御を行うためこれらのドライバモデルが応用されるようになった。

 

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2020年4月24日 (金)

自動車技術者のための人間工学(25)

 ドライバがどのように自動車を操縦するかというドライバモデルも、Human Factorの範疇である。1960年代から始まったドライバモデルの研究は、サイバネティクスの適用から始まった。

 サイバネティクスは、アメリカの数学者ノーバート・ウィナー(Norbert Wiener)が第2次大戦が終わった1940年代後半に提唱した概念である。サイバネティクスとは、制御理論と人間の運動制御におけるフィードバックシステムを統合したものである。

 第2次大戦中、ウィナーは高射砲の精度を改善する問題に取り組んだ。この問題には、飛行機の進路が時々刻々と変る状況で、高射砲が到達する時点での飛行機の位置を予測することと、この予測結果をもとに自動的に高射砲を制御する機構を求めるという二つの目的が含まれていた。そして、ウィナーはウィナーフィルターとして、確率的に飛行機の位置を予測し、フィードバック機構で高射砲を自動制御する理論を提案した。この研究をもとに、ウィナーは人間の運動機構とそれを制御する神経生理機構がフィードバックを通じて結び付けられることを発見し、生理学と工学の間にあるみぞは埋められると考えサイバネティクスの発想にいたったといわれている。

 ドライバは自動車の速度を、目標速度と現在速度の差を埋めるフィードバック操作で調整することは容易に理解できる。サイバネティクスにより、ステアリング操作もフィードバック操作であるとの概念が生まれ、フィードバックを含んだ運転制御モデルの研究が始まったのである。

 

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2020年4月23日 (木)

自動車技術者のための人間工学(24)

 副次課題法は1940年初頭に、ドイツの心理学者ボーネマン(Bornemann)は始めた。ボーネマンは、あるタスクをスキル化すると無意識的にタスクをこなすようになって他のタスクをする余裕が生まれることを、実験的に示したかったのである。

 自動車の運転も慣れてスキル化してしまえば、定常的な運転は無意識で行うことができる。そのため、ボーネマンの実験と同じことが行えるはずである。

 1961年、ケンブリッジ大学の応用心理学者ブラウン(I.D.Brown)はこんな実験を行った。それは、運転しているドライバに、8桁の数列を一定間隔で音声で提示し、前の数列と異なる値の桁を答えさせるという実験である。その実験結果は、スキルの高いドライバほど、副次タスクの成績が良かったのである。この実験以来、ドライバやパイロットのワークロードを計測する手法として、副次課題法が広がって行った。

 副次課題法は、運転という主タスクにどの程度資源を投入しているかを計測する手法として始まった。その後、副次課題によっては主タスクたる運転に影響を与える場合もあることがわかり、車載機器による認知的ディストラクションを評価する手法としても用いられるようになった。

 

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2020年4月22日 (水)

自動車技術者のための人間工学(23)

 視覚的ディストラクションは、視界遮断法等により直接計測が可能である。それでは、認知的ディストラクションはどのように計測すればよいだろうか。

 認知的ディストラクションの計測とは、ドライバが運転に集中して他のことを考えてないか、あるいは運転以外のことにどの程度意識が向いているかを計測することである。そしてその前提として、人間の情報処理能力の容量が一定であるという仮定を置いている。

 人間は同時に多くのタスクを試みても限界がある。そのため、人間の情報処理容量には限界があり、それを情報処理資源容量(Mental Capacity)と呼ぶ。そして、あるタスクの実行によって使われる部分を取り除いた残りの容量を余裕容量(Reserved Capacity or Spare Capacity)と呼ぶ。ドライバの主タスクは運転であり、運転タスクに資源容量を全部使っていれば、運転以外のことは一切できないということになる。この状態をタスクのディマンドが高いという。逆に、タスクのディマンドが低ければ、他のタスクもこなせることになる。そこで、運転しながら運転以外のタスクを行い、運転以外のタスクの成績から運転タスクがどの程度資源を投入しているかを推定する副次課題法が考えられた。

 副次課題法の前提は、ドライバにとって運転タスクが必ず主タスクとなり、非運転タスク(副次課題)を実行させても運転がおろそかになることはないということである。副次課題法はタスクの成績(パフォーマンス指標)によって精神的負荷(メンタルワークロード)を推定する手法である。

 

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2020年4月21日 (火)

自動車技術者のための人間工学(22)

 運転にどの程度視覚情報を利用しているかを計測する手法として、視界遮断法がある。これは、視界を容易に遮断できる手段を用い、どの程度視界が必要かを計測する手法である。

 視界遮断法は、1960年代にトロント大学のセンダーズ教授(J.W.Senders)が考案したものである。オリジナルの視界遮断方法は、ヘルメットに視界を遮断するバイザーとスイッチでそのバイザーが開閉する装置を用い、ドライバーが運転中に必要と思うときだけバイザーを上げて視界を確保するという実験だった。

 視界を遮断しているときが脇見やオーディオ機器を注視している状態に相当し、視覚的ディストラクションを人工的に作ったものといえる。この手法は容易に繰返し必要に応じて視覚的ディストラクションを発生させることができるため高く評価され、その後も多くの研究者が使用し改良していった。現在では、オクルージョン法として、液晶シャッターメガネを用いて車載機器タスクを評価する方法として引き継がれている。液晶シャッターを使う場合は、静止環境で前方注視状態をシャッター閉とし、車載機器を操舵時にシャッター開として、オリジナル手法とは開閉を逆転させる。これにより、車載機器を操作する時間を計測するのである。

 オクルージョン法はJAMAのガイドラインや、アメリカの自工会AAMのガイドラインに適用されている。ただし、一回の視認時間が2秒を超えるタスクは評価できなかったり、認知的ディストラクションには適用できない点が課題である。

 

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2020年4月20日 (月)

自動車技術者のための人間工学(21)

 オーディオ操作による視覚的ディストラクションは、1980年代にアメリカで調査が行われた。オーディオ機器を操作するために注視する時間を計測したのである。

 この調査で、ラジオの選局ボタンやボリューム調整等でオーディオ機器を注視する時間は、どのような操作でも一回あたり1~1.5秒であることがわかった。すなわち、運転するために前方を監視することから眼が離れる時間は、1.5秒以内ということである。

 1.5秒以内で完了しないような難しい操作はどうしていたかというと、数回に分けて操作していた。この調査結果から、1秒程度の注視時間を3回まで繰り返す操作は運転に問題なく、1回の注視時間が2秒以上になるものや4回以上繰り返すものは運転中NGとの指針が提案された。この提案から、より厳密な車載機器タスクの許容範囲の研究が始まった。そして、これらの研究成果はカーナビゲーションの操作に適用され、更にカーナビゲーション特有の操作表示の許容範囲の研究が行われた。

 これらのガイドラインは、日本では自動車工業会JAMAが発行する。JAMAには日本の全ての自動車メーカーが会員であり、JAMAの研究課題はJARI(日本自動車研究所)に委託されることが多い。

 

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2020年4月19日 (日)

自動車技術者のための人間工学(20)

 カーナビの普及と同時期に始まった、もう一つの非運転タスクが携帯電話の使用である。携帯電話の使用は運転に必要なタスクとはいえないが、現代人の生活習慣として普及しているため運転中のタスクの安全性について検討しなければならない。

 運転中の携帯電話の使用は危険であり、各国で通常の携帯電は使用禁止になった。しかし、国によっては手を使わないハンズフリーの通話は許可され、日本でも携帯電話から他の機器に接続して手を使わない通話は許可されている。

 ハンズフリー化によって、携帯電話の操作に係る視認性の問題は解決された。しかし、電話の会話に集中して意識が運転から削がれることの問題は解決していない。運転中に運転以外のことをして運転が阻害されることをディストラクションという。ディストラクションには、非運転タスクを見ることにより前方視野の確認ができなくなる視覚的ディストラクションと、意識が削がれる認知的ディストラクションがある。なお、眠気や覚醒度低下で運転に集中できないことはディストラクションには含めない。

 視覚的ディストラクションは、古くからオーディオ操作時で問題になりガイドラインも制定されている。一方、認知的ディストラクションは現代でも研究の対象である。

 

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2020年4月18日 (土)

自動車技術者のための人間工学(19)

 紙地図を使って目的地に向かっていた時代は、運転しながら使うのではなく、車を停止させて紙地図での確認を行っていた。ところが、現代のカーナビでは運転しながら使うことが前提となっている。

 紙地図の時代は、ドライバが紙地図で目的地までの経路を解釈し覚えなければならなかった。カーナビは現在位置を示しながら、目的地までのルートも示してくれるので、使い方が全く異なるのである。

 しかし、画面位置がインパネ下部にあり、カーナビを見ると前方視界が確保できなくなるのはまずい。そのため、適切な画面位置が課題となる。また、画面をじっと見つめないとわからないようでは、前方視界と両立していても不安全になるため、わかり易い表示が課題となる。何秒以内にわかるかと、あるいは何秒間カーナビを見てもよいかという課題が生じる。さらに、カーナビの操作方法が、運転タスクを妨害せず両立する方式でないといけない。トータルでカーナビの非運転タスクが与えるドライバの負荷量を、極力少なくする必要もある。

 カーナビにより発生する諸課題は、カーナビの開発時点から認識され検討されていた。その成果として、現在、日米欧でそれぞれガイドラインが発行されている。

 

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2020年4月17日 (金)

自動車技術者のための人間工学(18)

 自動車を操縦するため前方を視認し、ステアリング、ペダル、シフトを適切に操作することを運転タスクと呼ぶ。自動車を動かすための基本的なタスクであり、自動車の誕生と共に発生したものである。

 自動車で見知らぬ目的地へ行く場合、自動車誕生の初期から地図と方位計を見ながら運転していた。自動車操縦のタスク以外は、非運転タスクと呼ばれ、非運転といえども必要なタスクといえる。

 当初、紙地図と手持ちの方位計だったものが、やがて方位計はインパネに組み込まれていった。そして、1980年代になると方位計は電子化され、紙地図がデジタル地図となってインパネにディスプレイで表示されるようになった。1990年代、方位計はGPSの利用により電子地図の中に組み込まれ、カーナビゲーションが登場した。以来、カーナビゲーションは普及して自動車の一機能として確立し、カーナビの操作が自動車に必要な非運転タスクとして認識されるようになった。

 新たな非運転タスクとなったカーナビは、新たな人間工学的課題も生み出した。すなわちそれは、運転タスクを行いながら、カーナビの車載システムを利用する非運転タスクを並行して行う状態が安全に成立するかどうかという課題である。

 

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2020年4月16日 (木)

自動車技術者のための人間工学(17)

 温熱快適性は、熱平衡状態が良さそうに思える。これは春秋の気候が穏やかな時には当てはまるものの、夏冬の気候が厳しい時は少し異なる。

 実際、夏では、平衡状態より温度が低い方が快適に感じる。同様に、冬では、平衡状態より温度が高い方が快適に感じる。

 乗車時の快適性はシートに着座した状態が基本となるため、さらに複雑になる。すなわち、シート面との接触状況やシートの素材の影響を大きく受けるのである。また、乗車直後と乗車に慣れてきたときに快適と感じる状態が異なり、さらに長時間乗車後は異なったものになる。ドライバと助手席乗員の感じ方も異なり、前後の乗車位置によっても異なる。そのため、一部乗用車では、前席の左右独立に温度調整できる冷暖房装置が設定されている。後席に独立した温度や風量調整ができるスイッチのあるものもある。

 オープンカーや欧州車では、冬場のシートの影響を考慮してシートヒーターを設定する車種もある。今後は、エネルギー効率面を考慮して、局所暖房や局所冷房と温熱快適性の関係を検討する必要が考えられる。

 

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2020年4月15日 (水)

自動車技術者のための人間工学(16)

 運転中の眠気の生理的指標としては、脳波、心拍数、呼吸数、皮膚電気反応が代表的なものである。特に、脳波はEEG(Electroencephalogram)、皮膚電気反応はGSR(galvanicskinresponsc)と記すことが一般的である。

 これら指標を計測して運転中の眠気を判定するには2つの大きな問題点がある。これらの指標は完全に覚醒しているときと眠っているときは明確に異なるものの眠い状態では不明瞭になることと、計測装置の車載化が困難なことである。

 そのため、非接触で眠気を判定する手法として、ドライバの瞼の動きを捉え眠気を判定するPERCLOS(PERcentage of eyelid CLOSure time)が標準的な眠気判定となっている。PERCLOSとは、単位時間あたりの閉眼時間割合のことで、覚醒度の低下に伴って値が増加する。車載カメラでドライバの顔を撮像し瞼の開閉割合を検出することは、条件さえ整えば容易に行えるため、実用化が可能である。また、リアルタイムでの計測はできないが、ドライバの眠気を解析する手法として、顔表情評定法も標準的な眠気判定となっている。これは、ドライバの顔のビデオを5秒毎の眠気を独立して2名で5段階評価し、両名の結果が80%以上一致するまで繰り返すという手法である。

 そして、眠気が検知できれば、何らかの刺激によって眠気を解消する手段も研究されている。ただし、確実に眠気を解消する手段は、運転を止めて仮眠を取ることである。

 

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2020年4月14日 (火)

自動車技術者のための人間工学(15)

 疲労問題の一部として、居眠り運転が職業長距離運転の問題として古くから研究されている。職業としての長距離運転は十分な休憩が取れず、夜間運転もあるため睡眠時間が低下し、眠気が起きやすいといえる。

 人間を含むほとんどの生物には体内時計があり、24時間周期で変動する生理現象が決まっている。これを概日リズム(サーカディアンリズム)と呼び、人間では覚醒度が強く影響を受ける。

 人間のサーカディアンリズムでは、明け方の午前5時と昼過ぎの午後2時から3時に覚醒度が低下する。徹夜していて午前5時に強烈な眠気に襲われた経験は誰もが体験するのである。そして、午後2時から3時の眠気は日常感じていることである。一日の時間別事故データでも、これら時間帯は事故が多い。夜勤のため昼間に寝ようとしても、サーカディアンリズムのため、午後2時から3時以外は十分に寝ることができず、結局睡眠不足となり慢性的な睡眠不足となってしまう。この状態で運転すると、容易に覚醒度が低下し危険を招いてしまう。

 1980年代、連続して2時間運転すると休憩を促すシステムが提案された。これは眠気を検知しているのではなく、眠気を誘う長距離運転を防止しようという試みであった。

 

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2020年4月13日 (月)

自動車技術者のための人間工学(14)

 1930年になると、ジョージ・ワシントン大学心理学部のモス(F.A.Moss)教授は、自動車の疲労と乗り心地をRide Comfortと呼び、心拍等の生理学的指標を計測して客観的に把握する必要があると提唱した。そして、疲労の主要因は車体振動と考えられていたのである。

 当時の車体振動は道路の整備不良が主原因だった。ドイツのアウトバーンが始まったのは1930年代から、フランスのオートルートが1955年から、イギリスのモーターウェイは1959年から、イタリアのアウトストラーダが1961年からであり、日本の高速道路は1965年からだった。

 これら高速道路が整備されるまで、職業運転手は長時間労働で腰痛に悩まされており、それは道路の整備不良による車体振動が原因とされていた。高速道路が開通し道路の整備状況が改善され始めると、一般のドライバが長時間運転を行うようになった。一般ドライバの長時間運転で問題になったのは、腰痛ではなく運転疲労だった。運転疲労すると運転パフォーマンスが低下し、事故の発生率が高くなると思われたのである。しかし、運転疲労の定義が難しく、運転パフォーマンスも明確に定義ができないこともわかっていった。

 また、長時間運転をしても明確な運転行動の変化が観察できないこともある。そもそも、運転疲労と事故の関係も明確でなく、実験しても再現性が難しく、現在でも研究対象となっている。

 

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2020年4月12日 (日)

自動車技術者のための人間工学(13)

 これまで紹介したHuman Factorは、シンボルがわかりやすいかどうかといった心理的な側面はあるものの、操作性や視認性等の直接計測できる物理的なことがらが中心だった。これに加えHuman Factorでは、疲労、覚醒、認知等の生理学的・心理学的な人間の機能に関することがらを取り扱う。

 生理学的・心理学的側面で最初に問題になったのは、車両振動である。初期の速度が出ない頃の自動車は馬車と同じ車体構造だったものが、速度が上がると振動が激しくなり問題になってきた。

 1900年代初頭、イギリスでランチェスターブランドの自動車の製造販売を行っていたフレデリック・ランチェスター(Frederic Lanchester)は、自動車の振動を歩行しているときの振動に合わせるべきと主張した。人間の歩行ピッチは、歩行速度に関わらず約2Hzであり、人間はそのときの頭部の揺れを補正する眼球制御が備わっている。したがって、車体振動も2Hzにすれば乗車していても問題ないという考え方である。ランチェスターは、車体の振動が垂直方向に動くようなリンク機構を考案し、車体振動を2Hzになるようにバネ定数を調整したのである。

 現在でも車体のバネ上振動は2~3Hzで設計されており、ランチェスターが起源である。ランチェスターブランドの自動車は技術的に優れていたものの販売面では成功せず、デイムラー社に会社を売却し、それ以降本人はデイムラー社の技術コンサルタントとして研究に没頭した。

 

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2020年4月11日 (土)

自動車技術者のための人間工学(12)

 カーナビゲーションが登場すると、自動車スイッチは革命的に変革を遂げた。タッチパネルの採用である。

 カーナビゲーションの膨大な機能を、通常のスイッチやボタンで実現しようとするとインパネがスイッチだらけになってしまう。そこで、カーナビゲーションのモニタそのものをスイッチにしたのがタッチパネルである。

 タッチパネルを使うと、モニタに表示される文字そのものがスイッチになる。階層構造の実現も容易である。上位画面で次の階層を選択すれば画面が変わり、その画面をタッチすればよいのである。モニタの同じところをタッチしても、表示されている文字やデザインが異なれば作動する機能が異なるのである。ただし、タッチパネルは操作感がないため、操作に対するフィードバックが必要である。そのため、タッチパネルに触れると表示を変化させたり、音が鳴ったりして操作が行われたことを示すようにしている。さらに、機械的な振動を発生させ触覚フィードバックを与える試みもある。

 タッチパネルの課題は、コックピットの中のどこに設定するかということである。センターに置くとパネルを見ている間は前方を見ていないことになり、前方視野に入れると手が届きにくくなってしまう。

 

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2020年4月10日 (金)

自動車技術者のための人間工学(11)

 視認性に次いで重要事項は、スイッチ類の操作系である。スイッチ自身の視認性や、スイッチに使われるシンボルマークのわかりやすさという視認性もあり、計器の視認性と合わせて操作表示系と呼ばれることもある。

 初期のスイッチは、レバーを回すものが多かった。これは、レバーの先にリンク機構があって、リンクの動きでデバイスを制御するものが多かったからである。

 そして、スイッチで制御するデバイスへの接続系統の進化により、スイッチの形態も変わっていった。まず、リンクからワイヤが使われるようになると、プル式のスイッチが使われるようになった。リンクやワイヤから電気が使われるようになると、シーソー式のスイッチが使われるようになった。レバー式、プル式、シーソー式スイッチは、何れもスイッチの状態を見て確認可能である。スイッチの表示については、初期は何の表示もなく、次の文字の説明から頭文字表示が入るようになり、1960年頃からシンボル表示がヨーロッパから始まった。ヨーロッパの国々の言語は統一されておらず、メーカーは文字表示で対応するより同じ表示でスイッチの種類を減らしたいし、ユーザーもわかりやすいものを望んだからである。

 現代のスイッチ類のシンボルは、SAEではJ1048を発行し、ISOも2575で標準化している。ただし、これらのシンボルはメーカーのエンジニアが発案したものであり、ユーザからはわかりにくいものもある。

 

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2020年4月 9日 (木)

自動車技術者のための人間工学(10)

 計器の視認性には、計器が見えやすいかどうかだけでなく、計器の表示がわかりやすいかどうかという意味もある。計器、すなわちメータ自体の表示の変遷を見てみよう。

 初期のメータは、ケーブルの遠心力を利用したボビン式で、1920年頃まで続いた。やがて、回転式のメータが登場し、1930年代になるとメータの文字がデザインされるようになった。

 メータの文字がデザインされ始めたときの視認性は、必ずしも良好なものではなかった。読みやすさが改善されたのは、1970年代に入ってからのことである。1980年代になると、デジタル表示のメータが登場し読みやすさは大幅に向上した。デジタル表示は自発光式なため、ちらつきや読みやすい輝度・コントラストが課題となった。しかし、すべてのメータがデジタル式になったわけではなく、電子表示であってもアナログ表示するものが多く、これは自動車の状態表示の種類によって適切な表示形態を検討しなければならないことを示しているといえる。

 また、運転支援システムは自動運転関係のものは、これまで表示しなかった情報である。自動運転では何をどう表示するかが今後の課題となっている。

 

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2020年4月 8日 (水)

自動車技術者のための人間工学(9)

 アイリプスの効果は、ドライバの視界チェックだけでなく、計器への視認性チェックにも用いられる。まずは、自動車の計器の配置の歴史をみてみよう。

 初期の自動車では計器は少なく、ボンネットに配置したエンジンと室内を隔てるダッシュに取り付けられていた。1910年代後半、インストルメントパネル(インパネ)が設けられるようになり、増えだした計器をインパネに並べて付けるようになっていった。

 1930年代になると、計器をまとめてステアリング付近に集めたメータクラスタという形態に変化していった。計器が集中することになり、計器類の視認性は向上した。しかし、ステアリングが邪魔して十分な視認性は確保できていなかった。アイリプスが提案されると、ステアリングとの干渉も考慮した位置にメータクラスが配置されるようになり、現代の一般的なステアリングの間から覗くような位置が標準的なものになっていった。1970年代になり、無反射ガラスが計器表面に使われて視認性が向上し、1990年代になると、視線移動を短くするセンタメータが提案された。

 そして、直接視界に情報を投影するヘッドアップディスプレイ(HUD)が登場した。運転支援システムから自動運転時代になると、HUDの活用が進むものと思われる。

 

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2020年4月 7日 (火)

自動車技術者のための人間工学(8)

 アレンジ図には、アイリプスの他に人間を模した人形が描かれている。これをマネキンと呼ぶ。

 マネキンは1960年代に登場し、2Dマネキンと3DマネキンがSAEJ826として標準化されている。これはアメリカ人の体格を基にしているため、日本人向けにJSAEマネキンが準備された。

 1970年代に入ると、CADによる設計に備えてCADマネキンの開発が始まった。アメリカではクライスラーがCYBERMEN、ペンシルベニア大がJackを、イギリスではSAMMIEが、ドイツではRAMSISが開発された。CADマネキンは自動車設計用に開発されたCADのCATIAに組み込まれ、コンピュータ内で人間の動きを再現するこができる。すなわち、CAD内のキャビンで運転操作の妥当性をチェックできるだけなく、ドアを開けたときの乗降性のような人体と車体との干渉チェック等にも応用され、動作負荷の評価の検討も進められている。

 現在のCADマネキンは成人男性であるため、今後は多彩な体格のドライバに対応するマネキンが検討されている。さらに、高齢ドライバでは体格だけでなく、加齢による姿勢変化、筋力低下、間接可動域の減少を考慮したCADマネキンが研究されている。

 

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2020年4月 6日 (月)

自動車技術者のための人間工学(7)

 次の重要なことは、運転席からの視界である。運転はドライバが視て行う行為なので、いかに運転席から視界を妨げるものがないかが重要となる。

 視界にはドライバが首を回せば直接視ることができる直接視界と、ミラーを使って視ることができる間接視界の2種類がある。一般的に、ルームミラーをインナミラー、ドアミラーをアウタミラーと呼ぶ。

 運転席のドライバの視点位置をアイポイントと呼び、イギリスの試験機関MIRA(Motor Industry Research Association)が考案した手法が簡易的に使われる。この手法は、アイポイントにランプを置き、暗室内で車外に照射される範囲から見える範囲を評価するというものである。また、ドライバの体格によって眼の位置が異なるため、アイポイントではなくアイリプス(Eyellips)という概念が導入された。アイリプスは、アイポイントから眼の位置が分布する前後上下左右に広がる三次元の楕円体である。SAEでは95パーセンタイル、99パーセンタイルのアイリプスを定義し標準化している。

 アイリプスが定義されてから、視界関係のチェックはアイリプスを用いることが基本となった。例えば、自動車の基本設計で用いられる車両のコンポーネンツ配置を計画するアレンジ図では、車室内にアイリプスが描かれている。

 

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2020年4月 5日 (日)

自動車技術者のための人間工学(6)

 自動車用の人間工学で、最重要事項は運転席の位置である。なぜなら、様々な体格の運転手に対応可能な運転席でないといけないからである。

 しかし、自動車登場以来、1930年までシートは固定式だった。そして、人間工学が提唱され1930年代になって、ようやくスライド式のシートが登場したのである。

 1950年頃から、アメリカのマクファーランド(R.A.McFarland)らが、運転姿勢での座高等の各種身体寸法と体重データを収集し、人間工学に基づいた設計に必須となる寸法のパーセンタイルが提示された。パーセンタイルとは、データを大きさ順にならべて100個に区切り、小さいほうからどの位置にあるかを示すものである。マクファーランドがSAEの文章として、下限値の5パーセンタイル、平均値の50パーセンタイル、上限値の95パーセンタイルであり、以降5パーセンタイルから95パーセンタイルをカバーすることが、室内設計の目標になっていった。

 身体の寸法は国によっても異なるため、アメリカの男性はAM(American Male)、女性はAF(American Female)、日本の男性はJM(Japanese Male)、女性はJF(Japanese Female)と称する。パーセンタイルは %ile と表記するため、AM5%ile と表記されれば、アメリカ男性の5パーセンタイルということになる。

 

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2020年4月 4日 (土)

自動車技術者のための人間工学(5)

 頑固に変わらないハンドルとペダルに対し、変速機のギヤ比を選択するシフトレバーは技術の変遷によって変化している。そして、現代では、多種類の操作方法と設定箇所が混在している。

 主なシフトレバーは、手動変速用のフロアシフトとコラムシフトに、自動変速用のインパネシフト、パドルシフトが加わる。更に、自動変速機ではスイッチやボタン式も登場している。

 歴史的にはフロアシフトが最も古く、100年以上前の初期から採用されている。フロントエンジン・リヤ駆動のFRが多かったことから、車両中央にエンジンと変速機を配置することにより、フロア中央に配置するのが一般的である。中には、ドライバの外側に配置したものもあった。コラムシフトは、1930年代のアメリカ車が、前席をベンチシートとした3人掛けを目的として登場した。その後、自動変速機の登場により、コラムシフトがスタンダード化したこともあった。自動変速機では、直接変速機とシフトレバーを繋がなくても操作が可能なため、インパネシフト、パドルシフト、スイッチ・ボタン式と多彩化していった。

 通常の運転で、発進から定速走行まで手動変速では頻繁に操作するものの、自動変速ではレバーを操作する必要はない。そのため、シフトレバーは車種によって変化していったのである。

 

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2020年4月 3日 (金)

自動車技術者のための人間工学(4)

 自動車のハンドルはどの車種でも丸くて両手で操作し、アクセルとブレーキペダルは足で踏み込むものになっている。ところが、最初からこうなっていたわけではない。

 1885年、ベンツが創った最初の自動車パテント・モートルヴァーゲンは丸ハンドルではなく、ティラーと呼ばれるバーハンドルだった。ブレーキもレバー式で、手で操作していた。

 この操作系では、右手でバーハンドル、左手でブレーキレバーを持つことになる。スピードが出なかった(時速15km)ので、これでも良かったのだろう。しかし、速度が上がったり悪路ではティラーでの操縦は難しく、丸ハンドルを両手で持つ方式に変わった。また、速度と車重の増加のため、ブレーキ力が必要となり、もっとも力が出る足で突っ張ってペダルを踏む方式になったのである。もちろん、速度調整が必要となって、両手がハンドルでふさがっているため、ブレーキの隣にアクセルペダルを配した。

 丸ハンドルとペダル方式に変わって以来、100年以上もこの操作系は維持されている。これは、操作系を変えないという人間工学の基本を実践していることに加え、これ以上の操作系が見つからなかったことを意味する。

 

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2020年4月 2日 (木)

自動車技術者のための人間工学(3)

 自動車における人間工学的発想は、自動車が生まれてきた当初から行われていたといえる。なぜなら、自動車の運転は人間が行うことであり、Human Factor を考慮する必要があったからである。

 第一次世界大戦後、自動車が普及し始めると自動車事故が問題になってきた。そのため、1929年、ドイツの心理学者アッハ(N.Ach)は心理工学なる人間工学の概念を提唱したのである。

 1939年、アメリカ、エール大学の研究者フォーブス(T.W.Forbes)は、一般人が事故を起こすことに着目し、Human Factor に基づいて設計すべきであると主張した。すなわち、事故はドライバの視覚能力や反応時間等の人間の能力限界を超えたときに発生するため、人間の心理や生理特性を考慮するべきということである。

 フォーブスの主張は、コネティカット州で5年間に及ぶ29500人のドライバの事故歴を解析した結果から生まれた信頼のあるものだった。こうした研究から、科学的にとらえた人間特性に基づく自動車設計が必要という考え方が一般的なものになっていったのである。

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2020年4月 1日 (水)

自動車技術者のための人間工学(2)

 もう一方の Human Factors はアメリカで、1911年、ウィンスロップ・タルボット(Winthrop Talbot)が提唱した造語 human engineering に由来する。タルボットは、mechanical enginnering に対する概念として雑誌 Human Engineering を創刊した。

 雑誌 Human Engineering は短命に終わったものの、1916年、マイヤー・ブルームフィールド(Meyer Bloomfield)が人事管理の代名詞として用いたことによって復活した。そして、さまざまな分野で human engineering が用いられるようになった。

 その後、第二次世界大戦中、空軍戦闘機のコックピットの設計問題から人間工学の重要さが再認識された。当時、米国空軍機がロッキー山脈に激突する事故が多発し、心理学や航空工学の専門家らによる調査チームが結成された。調査チームの結論は、高度計の計器のインターフェイスデザインが悪いため、パイロットは読み間違いしたというものだった。その結果、人間の認知特性を考慮した読みやすい一針高度計が採用されることになり、航空機メータのデザインが変わったのである。この調査研究が契機となり、 人間の能力に機械を適合する流れができあがり、人間工学が成熟していったのである。

 この流れから、アメリカでは人間工学を Human Factors というようになった。Human Factors はヒューマンエラーを解決するため応用心理学を背景として発達し、イギリスでも Human Factors が用いられる。

 

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