2019年8月 3日 (土)

パワートレイン(13)

 パワートレインの役目がエンジン出力をタイヤに伝えることであるので,二輪駆動をベースにして四輪に駆動力を伝える四輪駆動は,パワートレインの全ての要素の集大成となる.二輪駆動(2WD:two-wheel drive)では,タイヤ2本の駆動力がグリップの眼界を超えると,タイヤはスリップを起こしそれ以上の駆動力は発揮できない.これに対し,4WDでは,車両全体で必要な駆動力がタイヤ1本当たりに対し2WDの半分になるためグリップの限界に対する余裕が生まれ,スリップを起こしにくくなる.これにより,加速性能向上,登坂性能向上,操縦安定性能向上,及び雪道等の滑りやすい路面での走破性が向上し,より高出力なエンジンへの対応も可能になる.欠点としては,駆動力を配分するための機構が追加されるため,重量,コストで不利になり,駆動抵抗が増えるため燃費が悪くなることが挙げられる.

 4WDの種類は,パートタイム方式かフルタイム方式に大別できる.パートタイム方式とは,必要に応じて前後輪を機械的に直結するもので,駆動力の分配は前後輸の荷重配分に比例させ,前後輸いずれかがスリップしてもタイヤのグリップカに応じた駆動力の分配となる.これはシンプルな機構で,燃費の良い2WDと走破性の高い4WDに切換えることが可能である.しかし,4WD時は常に前後輪の駆動輪同一回転するため,旋回時に前後輸の平均旋回半径差が生じると,タイヤと路面間に強制スリップが発生しタイトコーナブレーキ現象と呼ばれる現象を起こす.これは,タイヤの摩耗を増大させ,燃費も悪化させる.近年では,2WDと4WDのメリットを両立できるようになってきたフルタイム方式に移行している.

 フルタイム方式は,前後輸の回転差を吸収しながら駆動力を前後輪に常時伝達する.駆動力の分配方式には,固定分配式と可変分配式がある.固定分配式は,差動歯車機構で前後輸の回転差を吸収しながら前後輪へ固定された比率で駆動力を分配する.分配比は,前後輸の動的荷量配分に比例して設定する.差動歯車には,等トルクを分配する場合はかさ歯車,不等トルクを分配する場合は遊星歯車を使用する.

 可変分配式は,走行状態に応じて前後輪へ分配する駆動力の比率を可変とするものである.可変分配式には,トルク感応式,回転速度差感応式,電子制御式がある.構造的には,乗用車ではビスカスカップリング,油圧式カップリング,多板クラッチ等を前後輪の伝達経路上に配置し,SUVではこれらを差動歯車に並列配置して前後輪への駆動力分配を可変にする.トルク感応式は,LSD同様に駆動力分配と差動制限機能を合わせ持つ,ウォームとウォームホイール駆動機構内のかみ合い時に生じる摩擦力を利用したトルセンデファレンシャルがある.回転速度差感応式はビスカスカップリングや油圧式カップリングを用いる.ビスカスカップリングは,LSDとして用いる場合と同様の構造と特性になる.油圧式カップリングは,ビスカスカップリングよりも舗装路での低速走行時に走行抵抗が少ない特徴がある.電子制御式は,多板クラッチの押しつけ力を電子制御して分配比を可変とする.

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2019年8月 2日 (金)

パワートレイン(12)

 最終減速機は,変速機で適当な速度に変速された出力軸の回転数を車輪ハブの回転数に最終的に変換する部品である.最終減速機は差動機構とセットで構成される.縦置きエンジンでは最終減速の機能の他,回転軸の方向を直角に変換する機能も持つ.FR車では後輪軸に置かれ,エンジンと最終減速機はプロペラシャフト(propeller shaft)で結ばれる.横置きエンジンのFF車では,変速機と一体になったトランスアクスル方式である.また,最終減速機は,旋回時に発生する左右の駆動輪の回転差を吸収する機能も持つ.

 回転軸を直角に変換するため,かすば歯車(bevel gear)や,はすば歯車(helical gear)が使われる.FR車では,歯のねじれ線形が円弧の一部からなる,まがりばかさ歯車(spiral bevel gear)や,まがりばかさ歯車に対して歯車軸間にオフセットを付けたハイポイドギヤ(hypoid gear)が用いられ,横置きエンジンFF車では,はすば歯車が用いられる.

 最終減速機においては,旋回時に左右駆動輪に回転速度差が生じるため,それを吸収してタイヤのスリップを防止する差動機構が必要となる.最終減速機の中に組み込まれ,差動歯車箱,2個の差動大歯車,2個または4個の差動小歯車で構成され,差動歯車には,すぐばかさ歯車(straight bevel gear)が用いられる.差動小歯車は,駆動回転車軸を中心に回転し,差動大歯車を介して左右の車軸に駆動力を伝える.直進時には最終減速大歯車と一体で回転し,旋回時には差動小歯車が回転し左右の車軸に接続されている差動大歯車の回転速度差を吸収する.

 この差動機構では,常に左右駆動輸に等しい駆動力しか伝達できないため,路面摩擦係数が低い雪路やぬかるみで片輸がスリップして空転を始めると,反対側の装地輪の回転数が極端に減少する.そのため,片輪がスリップすると全体の駆動力が著しく減少するという欠点がある.そのため,差動制限機構を設け,低速回転側の伝達トルクを増大させ,有効に路面に駆動力を伝達するための差動制限装置(limited slip differential:LSD)がある.LSDは路面摩擦係数が低い道路でのスリップ防止だけでなく,旋回時の荷重移動で旋回内側の駆動力が低下した状況でも,外側輪の駆動力を確保できるので,スポーツ走行にも適している.LSDの方式には,いくつかの方式があり,トルク感応型がスポーツ車向けのものである.これは,差動機内部に設けたギヤが回転してかみあう際に発生する歯面摩擦力等で,差動制限トルクを発生させる方式である.また,左右輪の回転速度差に応じて差動制限する一般車向けの回転速度差感応型もある.これは,左右の回転速度差が生じると,シリコンオイルが封入されたケース内で多数のクラッチプレートがせん断抵抗を発生するビスカスカップリング(Viscous coupling)を用いるものである.

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2019年8月 1日 (木)

パワートレイン(11)

 CVT(continuous variable transmission)は連続的に変速のできる無段変速機である.近年,小排気量の自動車を中心に採用が増えているのは,燃費向上のためである.エンジンの燃費は,エンジン回転数とエンジントルクで決まる.ここで,燃料消費率を繋ぐと等燃費線(constant fuel consumption diagram)となる.また,エンジン回転数とエンジントルクが異なっても同じ出力となる等出力線(constant power diagram)を考えると,等燃費線と等出力線が接する点を結んだ線が燃費最適作動線(optimal fuel consumption operating diagram)となる.この燃費最適作動線上で走行することができれば,最小燃費で走行することが可能となる.CVTは車速に関わらず,自由にエンジン回転数を変更できるため,燃費最適作動線上を連続して変速するこが可能である.このため,CVTは自動変速でありながら,手動変速よりも優れた燃費性能を持つことができる.

 CVTは各種方式が開発されたが,主流になっている方式は,オランダの自動車技術者ファン・ドルネ(Joseph Josephus Hubert van Doorne)が開発した特殊な構造のスチールベルトを用いた方式である.このベルトは,高張力鋼鋸であるマルエージング鋼を精密に加工した厚さ約0.2mmのリングを約10枚重ね合わせ厚さ約2mmのスチールベルトとし,それに多数の金属エレメントを取りつけた構造になっている.このエレメントが押し合うときの押し力で動力を伝達する.一般の従来のベルトは引張力で動力を伝達していたことに対し,押し力で伝達することからプッシュ式ベルトとも呼ぶ.

 このベルト式CVTは,入力軸となるプライマリープーリ(primary pulley)と出力軸のセカンダリープーリ(secondary pulley)のベルトと接する半径を変化させることにより変速する構造となる.これらのプーリのV溝の斜面となるシーブ(sheave)は,固定シーブと可動シーブで構成され,可動シーブを軸方向に移動させることによりV溝の幅を変更する.この結果,ベルトが接するプーリの半径が変わり,変速比が変わる.ベルトは半径の変化につれ固定側シーブに沿って移動する.そのため,プライマリープーリ側とセカンダリープーリ側で固定シーブと可動シーブの位置を逆に配置してベルトのよじれを防ぐ構造となっている.ブーリ幅を変更するため,可動シーブ側に連結された油圧ピストンの油圧が制御される.

 CVTは変速比を自在に変更できるためエンジンの等出力線上に沿って移動させることが可能であるが,そのまま制御すれば,車両が加速しているのエンジン回転数が下がる様なドライバに違和感を与える変速をするため,理想的な燃費最適作動線上を走らせるのではなく,スロットル開度に応じたエンジン回転になるような変速線図を採用することが多い.また,アイドリング時のクリープ現象を発生させ,これまでのATと違和感を持たせないためにトルクコンバータと組み合わせたり,逆回転機構は遊星歯車セットと組み合わせたりすることが多い.

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2019年7月31日 (水)

パワートレイン(10)

 遊星歯車セットとは,サンギヤ(sun gear)を中心とした複数の遊星ギヤ(planet gear)が,自転しながら公転する機構によって減速ならびに増速する機構である.一つの歯車セットで複数の変速比や回転方向の切替えが可能であり,少ない段数で大きな減速比が得られ,かつ動力伝達を途切れ無く伝えられるため,トルクコンバータと合わせてAT用の変速機として使われる.具体的な構造例としての遊星歯車セットは,同心のサンギヤとリングギヤ(ring gear)にキャリア(planet carrier)に取り付けられた3つの遊星ギヤ(planet gear)が噛み合う構造になる.これらの歯車は、それらの間の伝達トルクを分配する3つの外部シャフトに接続されている.3つのシャフトとは,サンギヤ軸,リングギヤ軸,キャリア軸である.遊星ギヤはキャリアに取り付けられたピニオン(pinion)の周りを回転し,単一のギヤセットとして動作する.一つの遊星歯車セットでサンギヤ,リングギヤ,遊星ギヤの固定条件と入力条件を変えると次のように前進4速のギヤ比を取り出すことができ,かつ遊星ギヤを国定すると逆回転し後進ができる.

 サンギヤ,遊星ギヤ,リングギヤ,キャリアの角速度と歯数をそれぞれ,ωs,ωp,ωr,ωc,Zs,Zp,Zrとすると,次の関係が成り立つ.

    ωp = ωc – ( ωs – ωc ) Zs / Zp  
    ωr = ωc – ( ωs – ωc ) Zs / Zr  

この関係式から,サンギヤを入力軸,リングギヤを固定,キャリアを出力軸とすると減速し,ギヤの変換比率である速比は

   Zs / (Zs+Zr)                         

リングギヤを入力軸,サンギヤを固定,キャリアを出力軸としても減速し速比は

   Zr / (Zs+Zr)                         

となる.また,キャリアを入力軸,リングギヤを出力軸,サンギヤを固定すると増速し速比は

   (Zs+Zr) / Zr                          

キャリアを入力軸,サンギヤを出力軸,リングギヤを固定しても増速し速比は

   (Zs+Zr) / Zs                          

となる.サンギヤを入力軸,リングギヤを出力軸,キャリアを固定すると逆回転して減速し速比は

   - Zs / Zr                              

リングギヤを入力軸,サンギヤを出力軸,キャリアを固定しても逆回転するが増速し速比は

   - Zr / Zs                                  

となる.

 遊星歯車セットは,このように三軸の条件を変えることで複数の変速比を実現可能である.実際のATでは,複数の遊星歯車セットを組み合わせ,必要な変速段数や変速比を得る.また実際の変速は,スロットル開度に応じて発生するスロット圧と,出力軸の回転数に応じて発生するガバナ圧のバランスでシフトバルブを,車速とスロットル開度,及び変速段を示した変速線図(shift diagram)に従って制御する.

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2019年7月30日 (火)

パワートレイン(9)

 トルクコンバータとは,ATにおける液体(オイル)を介してエンジン出力を変速機に繋げるクラッチの役目を果たす流体継手の一種である.また,トルクコンバータは入出力速度と負荷の比率を自動調整する部品で,トルクと速度の変動に関する振動,衝撃,荷重の吸収,低メンテナンス,磨耗がないという利点を持つ.そして,エンジン側の入力と変速機側の出力が違う速さで回転できるため,車両の停止状態から駆動力を得ることができ,トルクの増大作用もあるためコンバータと呼ばれる.欠点は伝達効率が低いことと正確な制御が難しいというところである.

 トルクコンバータは入力軸に結合されたインペラ,出力軸に結合されたタービンとケースに固定されたステータから構成され,内部はオイルで満たされている.インペラまたはタービンに作用する流体トルクTは次のようになる.

 T = C ω^2 D^5                                            

ここで,Cは容量係数,ωは回転速度,Dは直径である.容量係数Cは,ブレード角等の幾何学的形状や流体密度,粘度等に無関係である.つまり,トルクコンバータの発生するトルクは回転速度の二乗に比例するので,回転速度の変化に敏感であり,インペラやタービン直径の5乗に比例するため,トルクコンバータのサイズがトルクの最大値を決める決定的な要素といえる.

 インペラにより押し出されたオイルにより,タービンを回すトルクが発生する.タービンを出たオイルはインペラの前からぶつかり,インペラの回転を止めようとする力が働く.この流れの方向をステータによって変え,インペラを後押しするような力を発生させる.つまり,ステータを組み合わせることで,インペラに流入する方向を変え,インペラをさらに回そうとする力をつくり,この力がオイルによってタービンに伝えられエンジントルクとステータ反力の和となる.これがトルク増大作用である.

 インペラとタービンの速度比が1に近いと,インペラとタービンはほぼ同じ速度で回転するのでステータに流入するオイルは羽根の裏側から入る.この場合,ステータのトルク増大作用はなく,オイルの流れは逆にステータにぶつかるためタービンを止める方向の力が働く.これを防ぐため,ステータに一方向にだけ回転できるワンウェイクラッチを設け,ステータは流れに合わせて空転する構造となっている.このステータが空転し始めトルク増大作用がなくなる状態をカップリングポイント(coupling point)と呼ぶ.

 トルクコンバータの性能は,カップリングポイントで大きく変わる.カップリングポイントよりも入出力の速度比が小さいとき(エンジン回転の方が変速機の回転より速いとき),トルクの増大作用のためトルク比は1を超えており,速度比が0(車両停止状態)のとき最大となる.速度比の増加に伴いトルク比は低下し,カップリングポイントで1となる.すなわち,速度比e,トルク比t,効率ηはそれぞれ,

 e = ω2/ω1 
 t = T2/T1 
 η= T2ω2/T1ω1 = te 

である.ただし,ω1は入力回転速度,ω2は出力回転速度,T1はインペラトルク,T2はタービントルクである.

 通常の走行では,カップリングポイントより速度比の大きいカップリングエリア(coupling area)を用いる.発進時や追越し加速が必要な時にエンジン回転を急に上げると,トルクコンバータ内で大きな滑りが発生し,その結果トルクの増大作用が発揮され必要なトルクが得られる.ただし,トルクコンバータの効率は滑りがあるため100%にはならない.そこで,燃費を良くするため,一定速度で走行しトルクコンバータが必要でない領域では入力軸と出力軸を機械的に結合するロックアップ(lock-up)機構が設けられている.ロックアップ機構は,タービンにロックアップピストン(lock-up piston)という円盤が取りつけられ,油圧によりロックアップピストンをインペラに押しつけることにより入力軸と出力軸を締結させる仕組みである.

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2019年7月29日 (月)

パワートレイン(8)

 自動変速機(automatic transmission:AT)ATは,車速やエンジン回転数に応じてギヤ比を自動で変更する変速機である.ギヤ比の選択やクラッチ操作の負担から解放される ため,渋滞路でのドライバの疲労軽減に大いに貢献する.ATは後で説明するトルクコンバータと遊星歯車セット(epicyclic gearset)で構成され,1900年代半ばから急速に発展し普及した.

 ATにはMTと比較して次の長所がある.
・ギヤ比の選択を自動で行うためドライバのスキルが不要
・クラッチ操作から解放され渋滞路での疲労軽減
・燃費と排気ガス量はドライバに左右されず一定
・変速のスムーズさがドライバに左右されず一定

 一方,次の欠点がある.
・コストが高い
・重量サイズが大きい
・燃費が悪い

 これらの欠点にも関わらず,ATは利便性や快適性が評価され大型車から普及し,ヨーロッパでは20%程度の普及率だが日米では90%もの普及率となっている.この普及率の意味合いは,日米で普及したというよりもヨーロッパで普及率が上がらないと捉えることができる.ヨーロッパでも大型車はほぼATになっている.しかし,小型車においては,渋滞が少ないヨーロッパの交通環境で,ヨーロッパのユーザーの必要以上のものを買わないという合理精神のため普及が進まないのである.また特に,日本ではATの小型化に努め,軽自動車用のATも普及している.

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2019年7月28日 (日)

パワートレイン(7)

 MTでは,シンクロスリーブの移動によって必要なギヤ比で主軸を回転させる.ギヤ比を変更するとき,異なる回転数の副軸と主軸のギヤを嚙合わせる必要があり,これを実現するのがシンクロメッシュ機構である.シンクロメッシュ機構は各速ギヤ側のシンクロナイザーと,シンクロスリーブ側のシンクロナイザーリングで構成される.

 シンクロスリーブは主軸上で軸方向にスライドすることができ,シフトフォークによって移動する.各速ギヤには,円錐形のシンクロナイザー(摩擦機構)があり,そこにシンクロナイザーリングが回転を同調させつつ噛み合い,同調した時点で噛み合う.

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2019年7月27日 (土)

パワートレイン(6)

 変速機は,エンジンの回転をタイヤに伝えるギヤ比を変更する部品である.主な変速機には,ドライバが手動でギヤ比を変更する手動変速機,ギヤ比を自動的に変更する自動変速機,ギヤ比を自動的に変更するが,決まったギヤ比を変えるのではなく無段階でギヤ比を変化させる無段変速機の3種類がある.

 手動変速機(manual transmission:MT)は,複数の異なる比率のギヤで構成され,ドライバが手動で適当なギヤ比を選び,変速する方式である.MTには,図3.5に示す前輪駆動車用の横置きやトランスアクスル(transaxle)方式,及び図3.6に示す後輪駆動車や四輪駆動車用の直列方式がある.四輪駆動車では,フロントとリヤ両方の車軸を駆動するため,リヤに変速機を追加する場合もある.直列方式は乗用車から大型トラックまで幅広く採用されているが,横置き方式は乗用車や小型のバンで採用されている.地域市場別では,ヨーロッパと発展途上国でよく使われ,日米市場ではほとんど使われていない.

 MTは次の長所がある.
・機械伝達効率が高い
・ドライバが適切なギヤ比を選択すれば高燃費である
・安価である
・サイズが小さく軽量である

 一方,次の短所がある.
・ドライバに相当のスキルが要求される(日本ではAT限定免許がある)
・ドライバがギヤの選択を間違えると必要以上に低燃費となり,排気ガスも増加する
・渋滞路ではクラッチ操作とギヤチェンジ操作を頻繁にしなければならず,ドライバの負担となる
・大型車ではかなりのスキルが要求される

 前輪駆動車用手動変速機では,クランクシャフトからの入力軸,副軸(intermediate shaft/lay shaft),ギヤボックスの出力軸(主軸)の3軸で構成される.更に,最終減速機と差動ギヤ(differential gear )が一体化し,車輪を回転させる.変速機の構成は,後輪駆動車用やミッドシップ車用と基本的に同じである.最終減速比と合わせて,一般的にローギヤでは12:1,トップギヤで3:1の減速比となる.

 後輪駆動車用手動変速機では,差動ギヤと最終減速ギヤが別体となる.そのため,変速機での減速比は,ローギヤで4:1,トップギヤで0.8:1となる.通常,4速が入出力で1:1とする.

 MTの動作は次のようになる.エンジン回転と入力軸はクラッチを介して接続され副軸を駆動する.副軸は常に入力軸によって回転している.ギヤが選定されていないニュートラルでは,シンクロスリーブがどの各速ギヤにも噛み合っていないため出力軸は回転していない.ドライバがクラッチを切ってギヤを選定し,再びクラッチを繋ぐと,副軸が回転しながら選定されたギヤ比の主軸に噛み合う.副軸と主軸の回転速度は異なるため,シンクロスリーブを動かせて両者を同期させる必要があり,これを可能にするのがシンクロメッシュ(synchromesh)機構である.バックギヤを選定した場合で,アイドルギヤにより回転方向が変わる.

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2019年7月26日 (金)

パワートレイン(5)

 車両が停止状態でもエンジンは回転し続ける必要があるため,エンジン出力と変速機を切り離したり繋いだりするクラッチが必要となる.また,車両発進時にある程度エンジン回転を上げた状態で変速機に伝達するときも,エンジン出力と変速機は切り離す必要があり,変速機のギヤを変更するときも同様にクラッチが必要である.クラッチには以下の種類がある.

・乾式単板摩擦クラッチ(single-plate dry friction clutch):クランクシャフトに直結したフライホイール(fly wheel)と,変速機のシャフトに直結したクラッチディスク(clutch disc)がフライホイールに取り付けられたプレッシャプレート(pressure plate)にダイヤフラムスプリング(diaphragm spring)で圧着されエンジン側の回転が変速機側に伝えられる構造である.マニュアルギヤボックスに使用される.エンジン側と変速機側の回転速度に差があっても,圧着荷重を調節することで滑らせながらトルクを伝達することができ,機械的に噛み合う機構がないためエンジン側と変速機側の位相差に関わりなく接続が可能である.構造が単純で保守性も高い.しかし,摩擦による接続のため圧着部に耐熱性・耐摩耗性が求められ,銅系の金属線等を合成樹脂と共に加熱成型したセミメタリックが使用される.

・湿式多板クラッチ(multi-plate wet/oil immersed clutch):圧着面にオイルを潤滑させ,複数のクラッチディスクを交互に重ねた構造である.トルク伝達容量を保ったまま外径を小さくすることができるため,二輪車に使用されることが多く,自動車ではVWのダイレクトシフトギアボックスDSGというセミオートマチック車に使用されている.オイルを使うため,乾式よりも耐熱性・耐摩耗性に優れ,摩擦係数が低いためつながりが滑らかである.

・流体継手(fluid flywheel):オイルで満たされた密閉構造の中でエンジン出力側の羽根車と変速機側の羽根車が正対し,エンジン側の回転がオイルを介して変速機側に伝えられる構造である.トルクコンバータが使われるまで,自動変速機用クラッチとして使用されていた.

・トルクコンバータ(torque converter):流体継手と同じく,オイルにより回転が伝達される機構であり,エンジン側と変速機側の回転差によりトルクの増幅作用があるためコンバータと呼ばれる.エンジンがインペラ(impeller)を回してオイルの流れを生み,正対した変速機に繋がるタービン(turbine)が回転する.そして,両者の間に挟み込むように設けられたステータ(stator)がタービンからの排出流を整流し,インペラに還元することによりトルク増幅作用を発生させる構造である.自動変速機で使用される.エンジン回転が常に伝わるため,アイドリング状態でクリープ(creep)が生じる.

・電磁クラッチ(electromagnetic clutches):エンジン側の回転を電磁石への電力供給量で制御する機構である.機構そのものをプーリーに内蔵できるため小型化できる.また,機械クラッチのようにペダルを踏む必要がなく,シフトレバーのスイッチ操作で駆動することができるため,セミオートマチック車に使われることが多い.電磁クラッチは回転の伝達率を電流の強さで無段階に調整できるため,無段階変速機と組み合わせトルクコンバータの代わりとして用いられることもある.

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2019年7月25日 (木)

パワートレイン(4)

 パワートレインによってタイヤへの駆動力に変換されたエンジンパワーは,走行抵抗のためすべてが推進力になるのではない.車両の推進力は,パワートレインが変換した駆動力から走行抵抗を減らしたものである.そのため,走行抵抗を理解する必要がある.自動車が走行する際,車両に作用する走行抵抗は次のものがある.
・タイヤの転がり抵抗(rolling resistance)FRo:タイヤの変形によるエネルギー損失により発生する抵抗である.
・車体の空気抵抗(aerodynamic resistance)FAe:車体表面と空気との摩擦により発生する抵抗である.
・傾斜路での登坂抵抗(climbing resistance)Fcl:傾斜路での重力による抵抗である.
・エンジン,変速機,ドライブシャフト,タイヤ等の加速抵抗(accelerating resistance)Fa:回転運動が生じると慣性力のため作用する見かけの抵抗である.低いギヤでの加速時に顕著になる.

 転がり抵抗FRo[N]は,車両質量をm[kg],重力加速度をg[m/s2],fを転がり係数(車速により増加するが一般道で0.013~0.015)とすると,
 FRo = fmg
となる.

 空気抵抗FAe [N]は,ρを空気密度[kg/m^3](通常温度と気圧で1.2~1.3),cdを抗力係数(drag coefficient),Aを車両前面投影面積[m2],vを車両速度[m/s],νhを向かい風速度[m/s]とすると,
 FAe = 0.5 ρcdA(ν + νh)^2
となる.

 登坂抵抗Fcl[N]は,βを登坂路の傾斜角[°]とすると,
 Fcl = mg sin β 
である.

 加速抵抗Fa[N]は,回転部分の抵抗分を直線運動の質量にΔm[kg]に置き換えて,αを車両加速度とすると,
 Fa = (m +Δm)α 
である.定速直線走行時は0となる.

 これらの各抵抗の総和が全走行抵抗Ftot [N]となり,次式となる.
 Ftot = FRo + FAe + Fcl + Fa 

 エンジンのスロットル全開時の駆動力と,加速抵抗を除く全走行抵抗との関係を示すものが走行性能線図(automobile performance diagram)である.図中に%で路面勾配を示す.この図から,最高速度と最大登坂能力を読み取ることができる.最高速度とは,最高段ギヤでの駆動力と勾配0%(水平路)で走行抵抗が釣り合ったときの速度である.Neをエンジン回転数,iを変速機の変速比,rをタイヤ半径[m]とすると,最高速度Vmax[km/h]は次式となる.
 Vmax = 2πr Ne 60 / 1000i 
走行性能線図では,トップギヤと0%の交点を求めればよい.また,最大登坂能力は,最低段ギヤの駆動力が示す最大勾配値[%]である.

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